ピアノが弾ける方でチャイコフスキーが好きな人ならば

ピアノ曲集「四季」の何曲かを一度は弾いてみたことがあるんじゃないかと思います。この曲集は一般にはロシアの一年の風物を各月ごとに12のピアノ曲で描写した作品集と解説されています。　

この2月のロシアのウクライナへの侵略が始まるまでは僕もこの解説のように思っていて特に違和感はありませんでした。でもこの作曲家の出自も含めて改めて考えてみると、この曲集の中で描かれている情景は彼の心の中のウクライナの季節と風景に重なっているのではないかと今は考えるようになってきました。実際に僕自身がウクライナを訪れた印象では、肥沃な大地を持つ農業国で気候もモスクワあたりと比べると幾分温暖な気がします。微妙な差異ではありますが日本国内でも異なる場所の気候やカルチャーの違いはあり、この曲集で描かれる季節の移ろい、そこで選ばれている風物にもそれは反映しているような気がしています。

 

チャイコフスキーがウクライナに祖先を持つということはご存じでしたか？

チャイコフスキーという姓は「チャイカの息子」というような意味で、辿っていくと祖父方の姓にあたります。またチャイカは「カモメ」を意味しウクライナではよくある名字のようです。チャイコフスキー自身も出自がウクライナにあることを意識し、ウクライナを愛していた事も知られています。

首都キーウの音楽院（チャイコフスキー記念音楽院）の正面玄関を入ると中央の階段のうえに大きなチャイコフスキーの胸像が見下ろすように鎮座しています。またハリコフの北西およそ100km行ったところにはチャイコフスキーが「マイホーム」とまで呼んだ街、トロシュチャネツTrostyanetsがあります。

 

 

以前にブログでも書きましたが

2年ほど前に僕はこの「四季」全曲を木管五重奏に編曲しました。そして今年になってから7月に開催するアルエム弦楽合奏団の定期でこの曲集の初夏から夏に当たる三曲、6月「舟歌」7月「刈り入れの歌」8月「取り入れ」を新たに弦楽合奏に編曲して演奏します。

今回アルエムの定期演奏会のテーマを夏にしたことからこの三曲を編曲することにしたのですが、改めて楽譜を書いているうちにチャイコフスキーのイメージした風景への思い入れの多くの部分には彼の生活の中心となるモスクワやサンクトペテルブルクなどのロシアではなく、心の中にあるウクライナのそれに依っているとぼくには思えるようになりました。このような状況にならなければおそらくここまで作品の原風景については考えなかった。

 

この弦楽合奏への編曲により

四季の中でもよく知られている6月「船歌」は弦楽によりさらに情感が増し、他の収穫を題材にした二曲でも合奏で演奏することにより躍動感と力強さが増しているようになったと思います。原曲をご存知な方にとっても聞いていただければ新たな魅力が味わっていただけるのではないかと思っています。

 

5月15日（日）にすみだチェリーホールで

アルエムの指導者を中心にした小さな編成でこのチャイコフスキーの三曲を含めたプログラムを中心にしたミニコンサートを開催します。7月の定期演奏会への準備とアルエム弦楽合奏団の地域への紹介を兼ねたコンサートとして開催します。チャイコフスキーの三曲以外にも楽しい曲を揃えてプログラムしてみました。お近くの方は是非おいでいただき、ひととき弦の合奏の響きを楽しんでいただければと思っています。