コストラマの国際現代音楽祭
コストラマの国際現代音楽祭
1994.6.29
モスクワの北から東へ、美しい寺院が並ぶ町が、ほぼ円形に点在している。12~18世紀のロシ ア正教会の建造物が多く、丸屋根が黄金色に輝いているため、俗に「黄金の環」と呼ばれ、ロ シアの人々の心の故郷でもある。
コストラマ(Kostroma日本語のガイドブックではコストロマ と表記しているが現地の人はこう発音している)市はこの「黄金の環」の中でも特に歴史の古い 町の一つである。周囲を森に囲まれたヴォルガ川の川沿いの静かな町で石や木造りの古い建物 が立ち並び、自動車やトロリーバスが走るメインストリートから脇に入るとまるで中世にタイ ムスリップしたような錯覚に襲われる。
旧ソ連邦のころは外国人は入れなかった地域で、もち ろん日本人が訪問するのも今回がはじめてである。この町で今年の5月30日から6月4日の六日 間にわたって国際現代音楽祭が開催された。参加したのは日本、オランダ、アメリカとロシア の四カ国の音楽家達で室内楽からパフォーマンスまで幅広いプログラムが連日催された。日本か らは作曲家の浅香満氏と私を中心に、ギタリストの三浦浩氏とピアニストの黒川智佐さんの二 人の若い新進の演奏家とヴィオラの堀越みちこ(私の家内)が加わり、これに私の子供のためのピ アノ曲の演奏のために長女のまき(小5)が同行し総勢六名で参加した。
音楽祭での日本の演奏会 は大変好評で終了後楽屋には多くの人達が詰めかけ我々はその対応にうれしい悲鳴をあげるほ どだった。出演者はそれぞれTVのインタヴューを受けたり、地元の新聞の批評も日本の音楽に たいし欄を設けて非常に好意的に書いてくれた。この音楽祭の合間に市内のミュウジック・カ レッジとミュウジックスクールを見学する事ができた。限られた紙面の中で今回見聞したロシ アの音楽教育制度のことを書かせてもらうことにする。カレッジは日本で言えば中学から高校 までに相当しここを卒業すると音楽教師の資格がえられる。またさらに専門家として研鑽を積 むものは卒業後各地の音楽大学に進学する。ミュウジックスクールは小学校の生徒を対象に し、子供達は学校にも行きながらここで授業を受けている。この形態は全国で同じ制度になっ ているそうだ。科目は理論(ソルフェージュ)科と民族楽器も含んだ器楽科にわかれている。理論 科の授業の一環として作曲法がミュウジックスクールの段階からすでに組み込まれていて生徒 による作品の発表会も行なわれているようだった。スクールやカレッジの生徒は慨して少しは にかみやでおとなしい感じだったが、町でみかけるちいさな子供達は好奇心旺盛でカメラを回 しているとそばによって来て話しかけたりしてくる。
ロシアでは音楽教育はあくまで専門家や 教師を養成するのが目的で、日本のようにそれと並行して一般教養の中で音楽が義務教育のな かにかなり高度な水準で組み込まれているということはないように思われた。日本の音楽教育 に関する関心は高く。制度や教育全体のなかでの伝統音楽の割合等に関して学生や教師から逆 に活発な質問を受けた。見学の最後にこのカレッジの卒業生がバヤン(アコーディオン)とバ ラライカを中心にしたロシアの民族楽器でトリオの演奏を聞かせてくれた。バヤンを弾いてい た少年はロシアの全国コンクールで2位になった実力の持ち主ということで音楽祭の最終日には ソロでグバイドゥーリナの作品と地元の作曲家で今回の音楽祭の主催者でもあるエレーナ・レ ーベジェワの作品を演奏しその年齢に似合わぬ自信に満ちた演奏でロシアの演奏家の水準の高 さと層の厚さを改めて感じさせられた。こうして我々は音楽祭を無事終了し帰途についた。コ ストラマの風景と出会った人々との暖かい交流は多くのおもいでとしては参加者全員の心に残 り続けるだろう。
(『教育音楽-小・中学版』平成6年8月号)
関連情報
堀越隆一公式サイト
作曲家、堀越隆一の公式サイト。1976年のデビュー以降、数々の作品を発表する傍ら、編曲、指揮、評論を始め、後進育成の為のアルエム弦楽合奏団の設立、音楽を愛する人に最良の空間を提供するすみだチェリーホールの運営など多岐に渡る活動を展開。最新の活動情報、チケットや楽譜の販売など、随時更新していますので、ぜひお立寄り下さい。
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