堀越隆一公式サイト 作曲家、堀越隆一の公式サイト。1976年のデビュー以降、数々の作品を発表する傍ら、編曲、指揮、評論を始め、後進育成の為のアルエム弦楽合奏団の設立、音楽を愛する人に最良の空間を提供するすみだチェリーホールの運営など多岐に渡る活動を展開。最新の活動情報、チケットや楽譜の販売など、随時更新していますので、ぜひお立寄り下さい。

カール・レーヴェの世界 2017

Ⅰ リート&バラード集

 

Warpurgisnacht (ヴァルプルギスの夜)作品2の3

 母親と子供の対話のみで構成されたバラード、レーヴェはこれを最小限の材料でもって

曲にしている。詩は10節からなり、各節が子供の問いかけと母親の答えという形で、次第

に怪奇さを増してゆく。譜例1の[A]は歌のパートの音形であり、歌の素材はこれだけで、

この[A]が子供の不安気な問いかけでは短調で、母親の答えでは長調でと、使い分けられて曲が進行する。ピアノ伴奏部の素材も[B]のみで、この3連音の動機bが様々な音域にあらわれ、時に強調されて「ブロッケン山」で飛び跳ねる鬼火達のように曲の始まりですでに、不気味な背景を形成している。

 

 

 全曲の主調になっているのはロ短調だが、絶え間のない転調が重要な効果を挙げている。以下図式的に転調の過程を書いてみる。第1節から第3節迄は同主調で転調するグループでそれぞれ(ロ短→ロ長)(イ短→イ長)(ホ短→ホ長)となる。次の第4節から第6節迄は主題(a)の後半が少し変形された並行調のグループで順に(ロ短→ニ長)(イ短→ハ長)そして第6節だけが(ホ短→ニ長)となる。第7節から第9節では会話と会話との間が全く無くなり切迫した状況の中で半音階的な転調でクライマックスになる。(ロ短→ロ長)(ハ短→嬰ハ長)(ニ短→嬰ニ長)、第9節の嬰ニ長調(母親)で音楽的なクライマックスになるが、そこは意図的に主和音と属和音のぶつかった不協和な響きになっている。

 

(譜例2)Cis,e音の高音部でのトレモロにバスのais 音が加わった減三和音上で第10節

の子供の問いかけが叫ぶように歌われ、1/2 の音価になった4/16 拍子の終結部で動機a、

bの音形がそれぞれ変形、拡大されて(譜例3)最終行の「母さんは、ブロッケン山で 

夜を明ししたのよ」がロ短調→ロ長調と二度繰り返され絶叫のように終わる。なおこの曲

では声の音域が最終的には3オクターブ迄駆使される。

 

 

 

2 Tom der Reimer(吟遊詩人トム)作品135

 このバラードの魅力はこのリフレイン(譜例4)にあると言い切っても、多分聞いた人

なら納得してくれるのではないだろうか。一見すると単純で自然なメロディーに見えるが、

これはピアノが奏でる鈴(Glöckelein)の音のような伴奏も含め、詩に対応して意識的に書

かれているメロディーだ。そしてこのリフレインには、はじめて聞いた人にも、多分ある

種のなつかしさを感じさせる力があると思う。 

 主調は変ロ長調、Allegretto suave4/4拍子。やや長めのピアノの前奏から全四節の詩の

流れに沿って音楽はゆるやかに変化してゆく。劇的なバラードでは極めて周到に構成的な

態度で臨むこの作家がかなり無防備に曲を書き進めている。それでも変ロ長調からニ長調、

属調のヘ長調(12/8拍子)へと転調し、第4節で原調に回帰する。第1節と第4節の最後の

2行がリフレイン(譜例4参照)になっていることでかろうじてフォルムの均衡が保たれて

いる。

 

3 Abend Stunde(夕べの時)作品130の3

  作品130の第三曲。4/4拍子、Unpoco adagio.変イ長調。二節のテキス

トがほぼ有節的に歌われる。(譜例5)前奏、間奏、後奏も主旋律の素材が使わ

れている。テキストはK.ローゼ。

 

4 Der Mönch zu Pisa(ピサの修道僧) 作品114

 過去を背負った修道士とその死を歌ったJ.N.フォーグルによるバラード。全6

節の比較的短いバラードだが、無駄の無い構成と的確な和声表現で書きあげら

れた質の高い作品である。

 

 4/4拍子、Grave.の短い序奏(譜例6)、主調はホ短調だがこの中で既に

半音階的な進行が使われている。冒頭の主音Miの反復する付点のリズム形は主

部の歌の声部に反映されている。(譜例7参照)

  主部は12/8拍子、八分音符で連打される和声の動きが暗い背景を形成する。

(譜例7)歌のフレーズの間を半音階的な和声でピアノが繋いで行く。(譜例8)

 

 第3節からイ短調になり、歌の声部もディアトニックな動きが加わる。主人公

の独白「ああ、花のように、~」がハ長調で挿入され(譜例9)ピアノがその音

形を確保する。この楽句は次の第4節でも歌われる主人公の内面を吐露する部分

でこの部分でのみ八分音符で連打される和声の動きが停止されている。 

 

 

 第5節の半ばから主調のホ短調に回帰し、修道士のいなくなった春の訪れが歌

われる。最終節で墓石に記された修道士の名前が歌われ(譜例10)この部分が

冒頭の4/4拍子の序奏とリズム的に対応している。半音階的な和声進行を駆使し

た楽曲は最後にピアノのホ短調のカデンツで終止する。

 

 

5 Spirito Santo(スピリト・サント) 作品143

 エミリー・フォン・デア・ゴルツのテキストによる五節のテキストを二節単位

で三部に分けて作曲している。

 3/4拍子、ホ長調、Adagio.前奏で提示される三連音のiiqq q というリズム形

が曲の要所を纏めている。(譜例11)

 第1、2節は二部形式の楽句を有節的に繰り返し、第3、4節も徐々に転調しな

がら有節的に進み嬰ハ短調の属和音上で第5節に入る。最後はホ長調に戻り最終

句”Meinem Herzen Frieden zu.”(私が心に 平安を)を二度繰り返し三連

音の後奏をピアノが奏して終わる。

 

6 Deutsche Barcarole(ドイツの舟歌)作品103の3

 ト長調、ABAの三部形式、中間部はホ短調。ピアノの間奏(譜例12/25)が

その間を繋いで行く。繰り返される舟歌(譜例13/26)に変化はない。最後に

譜例12の間奏で終止する。前にも述べたように、殊更に作者を詮索しなくと

も、曲自体で自立した音楽になっている。

 

7 Der Totentanz.(死の舞踏)作品44の3

 ゲーテのバラード、テキストは全七節。全体は三部に分かれる。第一部はModerato.

6/8拍子、テキストの最初の二節がホ短調の属音Siで始まりイ短調のLaで終止する楽節で

二度、有節的に繰り返される。この間ピアノは徐々に音型が細かくなり、イ短調のドミナ

ントで次のPresto.につながって行く。2/4拍子の中間部は骸骨のダンスの場面(譜例14)

でテキストの第3節から5節までにあたり、イ短調が支配する。ここも各節が有節的に進行

し第5節の終わりから半音階的に転調し6/8拍子の第三部入る。ホ短調に戻り、最後の二節

で歌はクロマティックでグロテスクな音型になり、ピアノの伴奏が次第に高音の細かい三

連音で踊り狂うようになり、(譜例15)そのまま一気にホ短調で終止する。

 

Ⅱ デュエット集

 

1 Noch ahnt man kaum der Sonne Licht.(まだ日の光の気配もなく) 作品113

 「ソプラノとテノールのための二重唱」と副題がつけられている。テキストはウーラン

ト。主調はイ長調、短い三節のテキストが三部に分かれて歌われている。Larghetto. 4/4

拍子の三連音のリズムを伴う序奏で始まる。(譜例16)

 ピアノの三連音 の律動は夜明け前の谷間と森の静寂な雰囲気を曲全体に与えてい

る。第一部はテノールとソプラノが交互に音程を変えて第一節のテキストを繰り返し歌い

ながら始まる。(譜例17)第一節の終わりIm finstern(暗い谷間に)で重なり合いなが

ら属調ホ長調で第一部は終始する。

 第二部はアカペラで二つの声部がより絡み合いながら進行し、テキスト第二節のDie

Vöglein (小鳥たちは)からソプラノに六連音の動機(譜例18)とトリルの装飾的な音形

が加味されて主調イ長調のフェルマータで終止する。

 第三部は曲のエピローグにあたる。Allegro.4/4拍子でテノールとソプラノの二重唱が華

麗に曲を終える。

 

2 Heilig, Heimlig!(神聖に、秘めやかに!) 作品91

 訳詞の内容からは男性の求愛の歌に読めるのだが、これもソプラノとテノールのために

書かれた二重唱曲。(譜例19)全五節で書かれ、テキストはF.W.グービッツ。

 テキストは各節の最後の二行がリフレイン(譜例19)となっていて終わりの行が繰り返

されるところIst unsre heil’ge Heimlichkeit.(ぼくらの 聖なる秘密なのだ)で技巧的な

カデンツ(譜例19参照)が形成されている。

 曲はテキストに沿って進行する。Andantino con moto. 3/4拍子のテンポは全曲を通し

て変わらない。始めにへ長調のアウフタクトでテノールが第1節を歌い始め、第2節は変ロ

長調でソプラノ、第3節はへ短調でテノールと第4節の変イ長調までは交互に歌い継がれる。

各節のリフレインは全て主調のヘ長調(譜例19)に戻りピアノの後奏(譜例20)が完全終

止して次の節に繋がってゆく。第5節ではじめて二重唱になりへ短調から劇的に展開しリ

フレインのヘ長調の部分最終行でテキストがSei dort noch heil’ge Heimlichkeit.(あの

世でも なおも聖なる秘密であれ)に変わり、これが繰り返されて終止する。

 

 

3.Duetten für zwei Soprane von Goethe 作品104

 「ゲーテの詩による二人のソプラノのための二重唱」と題された作品104の三曲が歌わ

れる。タイトルの下に但し書きでSeinen lieben Töchter Julie und Adele componiert.と

書かれている。語学力には自信がないのだがレーヴェが自分の二人の娘(ジュリーとアデ

ル?)のためにゲーテの詩を素材にして書いた曲集であると書いてあるようだ。同声であ

るソプラノのデュエットで書かれているというスタイルも、具体的な存在(自分の娘たち)

がいるということであれば納得できる。

 

a) Die Freude(よろこび)

 常にテキスト(原詩)には忠実に逐語的に音楽化するこの作曲家にしては、かなり大胆

なくらい原文に手を加えて(語句の順番、繰り返し、強調など)書かれた作品だ。少なく

とも他のバラードや歌曲の中にはこんな書き方をされている曲はない。これは全バラード

と歌曲に目を通している僕が言っているのだから間違いはない(多分)。ゲーテの詩の面

白さをより強調して、歌っている娘たちを喜ばせたいという作曲者の親としての思いが伝

わってくるような気がする。作品104の三曲中では最も分量が多く変化に富んでいる。

 主調はト長調、 3/4拍子、Allegro. まずピアノの高音部で6連音の速い音形がトンボ

の飛び回ってる様子を描写する。(譜例21、音形a)属7の和音で終止。ソプラノⅠが詩

の冒頭を歌いだす。3行目でニ長調に転調し序奏の音形aが挟まれてニ短調の属9の和音で

終止しソプラノⅡが第2節1行目Sie schwirrt und schwebet und rastet nie.(ブンブン飛

んで 浮遊して 休むことがない)を歌う。(譜例22)

 

 第1節の4行目に戻りソプラノⅠ、Ⅱで第1節の最終行から第2節2行目に飛んでホ短調の

属音Siのオクターブ跳躍で半終止し(譜例23)フェルマータがおかれる。

 ppでピアノのト長調属和音から、ここまでのテキストの順番が二重唱のカノンで再現さ

れ、テキスト第2節1行目ニ短調の部分(譜例22)の最後und rastet nie.(休むことがない)

で大きなドミナント終止を形成しフェルマータ(譜例24)ロ短調で第1節4行から転調し

ながら第2節2行ホ短調の属音Siのオクターブの跳躍(譜例23)でフェルマータがおかれ

る。 3行目Da hab’ ichi sie,(さあ捕まえた)(譜例25)からVivace.2/4拍子で曲のコーダ

に入る。Adagio.4/4拍子でテキスト最終行が歌われト長調で終わる。

追補:

 訳のみですが、参考までに作曲者が変更した順番でテキストを並べて置きます。

 

 1節1行  飛びまわっている 泉のまわりを

      千変万化の トンボが

     それはもう長らく 私を喜ばしている

 

 2節1行  ブンブン飛んで 浮遊して 休むことがない

 1節4行  暗くなったかと思えば 明るく

      さながら カメレオンのように

     赤いと思えば 青くなり

     青いと思えば 緑になる

 2節2行  でも静かに! トンボは牧場に止まったぞ

 

【二重唱で】

 1節1行  飛びまわっている 泉のまわりを

      千変万化の トンボが

     それはもう長らく 私を喜ばしている

 2節1行  ブンブン飛んで 浮遊して 休むことがない

 1節4行  暗くなったかと思えば 明るく

      さながら カメレオンのように

     赤いと思えば 青くなり

     青いと思えば 緑になる

 2節2行  でも静かに! トンボは牧場に止まったぞ

 

 【コーダ】

 2節3行  さあ捕まえた さあ捕まえた

     こうなったらもう じっくり観察してやろう

     そして見えるのは 悲しげな暗い青

(訳:浅見龍之介)

 

b) An Sami Indisches Gedicht(サーミに インドの詩)

 主調は変イ長調、Larghetto. 6/8拍子。全体は二部に分かれ六行の短い詩が歌われる。

なぜ「インドの詩」というタイトルがついているのかはドイツ語のニュアンスまではわか

らないので論評できない。ピアノの上行する音階に乗ってソプラノⅠが初めの二行を歌う。

(譜例26)並行調のへ短調でソプラノⅡが3行目歌い、変イ長調のドミナント上重唱で5行

目のSami! Sami, (譜例27)を歌い前半部が終止する。後半は二重唱で5行目から歌詞が

譜例26のメロデイーで歌われる。主調で完全終止した後、詩の最終行が後奏のようにpで

繰り返されて終わる。小品だがよくまとまった美しい曲である。

 

c) März(三月)

 テキストは夏の訪れを待つ思いと喜びを歌う三節の詩。冒頭におかれたLarghetto. 4/4

拍子でのやや重い付点のリズムxe(譜例28のa)が曲が進んで行く中で動きを持って展開

されていくことで全体の流れが形成される。テキスト第3節の2行目までが曲の主要部分

で、変則的なABAの三部形式をとり、第3節の3行目以降が6/8拍子のコーダとなっている。

 

 冒頭はニ短調で譜例28の律動aをモティーフにして推移し、3行目Daß von den Blümlein

allen(花々の すべてに)で主調のニ長調になり速いテンポ(un poco più moto)

で旋律的な楽句が現れる。(譜例29)ドッペルドミナントからの半終止で三部形式のAが

終わり、ヘ長調、12/8拍子で中間部Bが第2節からのテキストで始まる。(譜例29)

 中間部はニ短調の属和音で半終止し第三部Aに戻る。ここでは第3節のはじめの2行が

歌われ、律動aを使った第一部の前半の再現が行われる。ピアノの属和音で6/8拍子のコー

ダにつながってゆく。(譜例30)

 コーダは律動aのリズム(譜例31参照)に乗ってAllegretto grazioso.6/8拍子。主調の

ニ長調で第3節最後の2行が繰り返される。ピアノの完全終止のカデンツ(和声的な終止

形)の上で最終行のGleich isit der Sommer da!(すぐにも夏が そこにある!)がなん

ども繰り返し歌われ高揚して曲が終わる。(譜例31同上)

 

Ⅲ オラトリオ、ジングシュピールからのアリア集

 オラトリオ、ジングシュピールからのアリア集、本来はどの曲もアンサンブルまたは管

弦楽での伴奏が伴った劇場用の作品の一部ということになる。このアナリーゼを書くため

にいただいた楽譜は該当するアリアのボーカルスコア(ピアノで伴奏するための編曲譜)

なため、あくまで個々のアリアの解説になっていることをお断りしておく。その背景とな

る作品の全貌とそこからの分析まではここでは論究はできない。いずれ何らかの形でこれ

らの作品が日本でも上演ができる機会があればと思う。楽曲全体の規模、編成など筆者と

しても興味の尽きないところはある。

 

1. Die Heilung des Blindgeboren《生まれつきの盲人の開眼》 作品131

Aria von Psalmodia(プサルモディアのアリア)

 プサルモディアPsalmodia、は登場人物の名前と思ったのだが語彙を調べてみると旧約

書の詩編の事だった。ただテキストにはヨハネによる福音書からと注釈が書かれている。

内容はキリストの言葉であるようだ。《生まれつきの盲人の開眼》というオラトリオであ

ることから様式としての旧約書の聖歌風なアリアというタイトルだと判断した。オルガン

を伴う低い男声のために書かれている。伴奏譜には音色(ストップ)の指定が書かれてい

てPed.もこの曲ではオルガンの足鍵盤のことだが他のアリアと同様にピアノでの伴奏は可

能である。

 

 Larghetto. 4/4拍子。短い曲だが全体は二つに分かれた中間部を持つA/B/Aの三部形式

で福音書9章の4・5節が歌われる。オルガンの序奏を受けてはじめの2行が主調の変イ長

調で歌われる。(譜例31)中間部Bはレチタティーヴォ的に推移しテキスト3行目So lange

es Tag ist.が繰り返された後、同主調変イ短調に転調して4行目Es kommt die Nacht,に入

りドミナント終止でフェルマータが挟まれる。続いてテキスト最後の5,6行から初めの1,2

行までが経過的に転調する中で歌われ、へ短調の属音Doでフェルマータ(譜例32矢印)

してオルガンのカデンツが挟まれる。主調変イ長調で主部A(譜例32参照)に戻り再び福

音書の1,2行が歌われて変イ長調で完全終止する。

2 Die drei Wünsche《三つの願い》作品42の3

Romanze von Suleima(ズライマのロマンツェ)

 コミカルなジングシュピール《三つの願い》からズライマのロマンツェ。イ短調、Allegretto

grazioso. 2/4拍子で5節の詩が三部形式で歌われるソプラノのアリア。前奏ののち

ソプラノが第1節をイ短調で歌い出す。(譜例33)間奏を伴って中間部へ、第2節が並行調

ハ長調で歌われる。(譜例33)第3節も間奏を挟み有節的に繰り返され、主調イ短調で第

4節主部に戻る。最終節もほぼ有節的に歌われて終わりの2行で中間部の音形(譜例33)

がイ短調で加わり広い音域で歌いきって後奏がついて終わる。

 

3 Der Segen von Assisi《アッシジの祝福

Aria von Franz(フランチェスコのアリア)

 未完のオラトリオ《アッシジの祝福》よりバリトンのレチタティーヴォとアリア。レチ

タティーヴォは伴奏を伴いながら調性が定まらず進んでゆく。オーケストラが全音符でイ

長調主和音から始まるフェルマータ(譜例34:合唱パートでBete!はカット)を三回提示

してイ長調から並行単調の嬰へ短調へ収斂してアリアに繋がる。

 レチタティーヴォはテキスト〔合唱:〕の後〔フランチェスコ:〕台詞の2行目まで

で、嬰へ短調で終止し3行目からアリアになる。アリアはAdagio. 4/4拍子、嬰へ短調で節

の終わりの4行目まで歌われロ短調ドミナントのフェルマータでオーケストラが半終止す

る。ここからニ長調、Allegro pomposo. 4/4拍子でアリアの主部に入る。今回の演奏では

初めのオーケストラの長い間奏がカットされている。主部は訳詞で掲載されているテキス

トの最終節が歌われ、構成はABACの二部形式でA:最終節1~3行ニ長調/B:第4行(繰

り返し)/間奏/A:1~3行ニ長調/間奏/C:5~7行ロ短調(譜例35)となり最終行を

Aの旋律で歌いニ長調で終わる。

 

4 Der sieben Schläfer《眠れる七聖人》作品46の22

Aria von Johannes ›Gott set mit euch!‹(ヨハネスのアリア「神、汝等とともにあ

れ!」)

 

 《眠れる七聖人》よりアルトで歌われるヨハネスのアリア。Maestoso. 4/4拍子。冒頭

無伴奏でヨハネスが歌うGott sei mit euch!に含まれる4度で下降する音形(譜例36)が曲

全体へ厳粛さを与える潜在的な動機の役目を果たしている。主調は変イ長調だがすぐには

調は確立せず安定した感じを与えない。二節の詩がA・B・A’の三部形式で歌われ、最後

のA’は第一節のテキストが再び使われている。

 始めのAの部分第一節の後半3行目で伴奏に動きが加わり変ト長調になる。(譜例37)

最終行のBis die Toten~(死者たちが復活する~)で半音階的に転調しト長調の主音で歌

い終わる。Bはオーケストラが変イ長調に戻して始まるが調的には安定した感じを与えな

い。随所に下降する4度の音形が現れ、主調のドミナント上で第2節の最終行が半終止して

歌い終わるところにたたみ掛けるように第1節冒頭の部分が連結され(譜例37)A’の部分

に入る。(譜例37)その後ほぼ有節的に歌われ、第1節の最終行で変イ長調が確立されて

終止する。

5 Johann Huss《ヨーハン・フス》作品82

Aria von Huss ›Israel hast dennoch Gott zum Trost‹(フスのアリア「まことに神

はイスラエルの慰め」)

 4/4拍子、Allegro maestoso. テノールのためのドラマティックなアリア。レチタティー

ヴォ的な冒頭の2行で主調のニ短調が確立される。フェルマータを挟みa tempo.でテキス

ト第3行目Gott, laß mich nicht straucheln~(神よ 私が足で~)から曲の主部に入る。

(譜例38)全体は大きく二部に分かれ、前半部はニ短調で緊張感を維持しながら劇的に推

移する。後半は23行目Dennoch bleibe ich~(それでも私が~)から一転して同主調のニ

長調で安らぎを持って始まる。(譜例39)中間部32行目Laß mich nur nicht~(ただ私

が足で~)で前半の劇的な音楽が再現され、(譜例39)37行目Dennoch bleibe ich~(そ

れでも私が~) でニ長調の主部に戻り最終行を繰り返して静かに終わる。

 

6 Das Schnupfer des neues Bundes《新約の贖罪犠牲》

Bass Aria(バスのアリア)

 

 前奏で提示される音形aが全曲を支配する。(譜例40)四つの部分に分かれそれぞれに

テキストの各節が対応する。コーダに当たる第四部では第1節のテキストが使われる。

 主調はホ短調、Allegro non tanto, ma vivace. 4/4拍子。前奏の音形aに乗って第1節が

悲痛に始まる。(譜例41)音形aの伴奏が途切れ3行目mit einem Kußが強調され(同上) 

クロマティックに転調しながらロ短調で第1節は終止する。第2節はニ長調から(同上)転

調を重ね調を確定せずに揺れ動き歌はハ短調のドミナントSolで終了する。第3節はハ短調

で音形aの拡大した伴奏上で歌われ(同上)最終行O Sünde ohne Maß,の繰り返しでクロ

マティックに転調しホ短調で終止、そこから第1節を使ったコーダに繋がる。(同上)ホ

短調で終止したのち、後奏が主音Miの保続音上でカデンツを形成しながらAdagioで終わ

る。

 

7 Meister von Avis《アヴィスの騎士団長》

Aria von Avis Der Meister Phönix-Sang (アヴィスのアリア 騎士団長の不死鳥の

歌)

 オラトリオ《アヴィスの騎士団長》よりアヴィス(テノール)のアリア。

 Andante nobile mosso. 4/4拍子。3連音iiqのリズム伴奏に乗ってイ短調の上行音階で

テノールが歌い始める。3節のテキストに従って三部に分かれ第1節はイ短調で始まり最終

行でハ短調のドミナント上で終わる。第2節はハ長調から転調を重ねホ長調で終止し音階

的だった歌の旋律に徐々に跳躍する音程が加わっていく。第3節はイ長調で最終行の

Phönix Christi bin ichi dann.の旋律を伴奏が鳥のさえずりのように模倣して歌との掛け

合いが続く(譜例42)コーダの部分でテノールは全音符の非常に音域の広い跳躍で最終行

を歌い。(同上)鳥のさえずりがその後奏となって終わる。

 

8 Die Zerstörung von Jerusalem《エルサレムの破壊》作品30の20

Aria von Josephus(ヨセフスのアリア)

 

 オラトリオ《エルサレムの破壊》よりヨセフス(バリトン)のアリア。変ホ長調、

Andante maestoso. 4/4拍子の主部とハ短調、Allegro. 3/2拍子の中間部を持つ三部形式

で書かれている。中間部のAllegroは主部と対照的にシンコペーションの切迫したリズム

形で展開し(譜例43)テキストの最後2行 Jerusalemで変ホ長調の主部に回帰する。

 

9 Die Auferweekung des Lazarus《ラザロの復活》作品132

Aria von Jesus /Dankgebet Jesus(イエスの感謝の祈り)

 

 オラトリオ《ラザロの復活》より「イエスの感謝の祈り」。レチタティーヴォを省略し

イエスのアリアのみが歌われる。伴奏はオルガンまたはピアノ。序奏として4/4拍子の付点

リズムでクロマティックに上行する低音からニ長調、6/8拍子でアリアに入る。アリアは

ト短調の中間部を持つ三部形式で、主部の始めVater, Ich danke dir, の楽句は曲中で調を

変えながら繰り返し挿入されイエスの感謝の思いを表している。(譜例44)曲が二長調で

完全終止した後、ア・カペラでイエスがテキスト最終行Lazare, komm heraus!(ラザロ

よ、出て来なさい!)と呼びかける。(譜例44参照)調的に完結した感じを与えないよう

Do♮のフェルマータで終わっている。

 

10 »Die sieben Schläfer«《眠れる七聖人》作品46の16

Aria von Martinus ›Lazarus ward auferwecket‹(マルティヌスのアリア「ラザロは

甦らされた」)

 

 オラトリオ《眠れる七聖人》よりマルティヌスのアリア「ラザロは甦らされた」。

 イ短調、Allegro maestoso. 4/4拍子。オーケストラの装飾音を伴った動きのある序奏か

らマルティヌス(バス)が劇的にアリアを歌い始める。(譜例45)

 主部でテキストの第1節が歌われ、最終行Christus rief: Es ist vollbracht!(キリストが

「成就せり!」と呼ばわったから)が並行調のハ長調のドミナントで繰り返される。

 オーケストラの短い間奏を挟んで中間部第2節がハ長調で始まる。(譜例45)八分音符

で下降する伴奏の音階が繰り返されて、第2節の最終行で3連符の速い音形になりオーケス

トラのクライマックスに向かう。(譜例45)主部はイ短調に戻って、第1節がほぼ有節的

に歌われ主調で完全終止する。

関連情報

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屋号 堀越隆一
住所 〒130-0021 東京都墨田区緑3-19-5-103
電話番号 080-6552-3195
営業時間 10:00~17:00
代表者名 堀越 隆一(ホリコシ リュウイチ)
E-mail info@horikoshiryuichi.com

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堀越隆一公式サイト 作曲家、堀越隆一の公式サイト。1976年のデビュー以降、数々の作品を発表する傍ら、編曲、指揮、評論を始め、後進育成の為のアルエム弦楽合奏団の設立、音楽を愛する人に最良の空間を提供するすみだチェリーホールの運営など多岐に渡る活動を展開。最新の活動情報、チケットや楽譜の販売など、随時更新していますので、ぜひお立寄り下さい。

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