飢えた子供たちを前にして

いつか書こうと思っていて中々書けなかったことを書いてみる。

僕が音楽をやろうと思って勉強を始めたのは高校生の頃だった。

始めたキッカケは体が大きいが病弱だという理由だけで中学校で吹奏楽班に入れられだのがキッカケだった。

楽譜も読めないのに無謀にも、

 

自慢じゃないがその時は楽譜なんか読めなかったし、音楽にも全く興味がなかった。でも譜面が読めるようになり、同時にクラシック音楽、現代音楽に興味を持つようになり、今考えると本当に無茶だと思うが、作曲家になりたいと思うようになった。

 

作曲をやりたいと言ってもなんのスキルもなく（ピアノは弾けない、理論や技法の勉強も始めたばかり）高校生の頃から師匠について学習を始めた。

ここら辺の経緯はまた日を改めて書いてみる。

 

音楽の勉強を始めて一番辛かったこと

音楽の勉強を始めた頃に、一番辛かったことが今回のブログのタイトルの言葉、サルトルの「飢えている子供たちを前にして文学に何ができるのか？」だった。

当時の大学は学園闘争のど真ん中で、僕も含めて若者の大半は社会の不正、不平等に怒り、その是正を強く求めていた。

 

そんな中で、確か朝日ジャーナルでだったと思うが、このサルトルの文章を読んだときは正直キツかった。

飢えた子供たちの前では芸術は何の役にも立たない。今貧困や戦禍の中で喘いでいる人たちがいるのに、おまえは何で呑気に役にも立たない音楽なんかやっているんだ。

こう問い詰められたとしたら、当時の僕には返す言葉がなかった。

 

それでも音楽は止める事は出来ずに悶々としながら勉強を続けていた。

心の中で、お前は逃げているだけだぞという言葉が聞きながら、、

 

吉本隆明さんの言葉が救ってくれた

そんな中、吉本隆明さんの言葉が僕を救ってくれた。読んだ本がなんだったか、正確な文章自体も覚えていないのだが、おおよそこういう内容だった。

 

芸術的な目的は芸術的な手段で、政治的な目的は政治的な手段でのみ達成できる。

 

もし飢餓や貧困の問題を解決したいのならば、それは政治経済的な手段でのみ解決でき、どうやるにしても本気でやらなければ解決できない事柄だ。

お前にとって本当にそこまで切実な問題なのかと。

 

自分にとって切実な問題は何なんだ

逆に言えば自分にとって切実な問題は何なんだということが突きつけられた。今悩んでいる事はそこから逃げるための手段になってはいないかと問われた気もした。

僕はいま音楽というものを選んでいる。それは浮世離れした呑気な世界なのだろうか？

 

今はそうは思ってはいない。

 

ひとは自分の内面というものを抱えながら生きている。生きる理由、術などすべてが内面の世界に関わっていると僕は思っている。人がこの世界で生きてゆくことに理由があるなら、その根底には内面の世界が関わっている。それを表現という手段である意味表面化してゆくことが芸術の存在理由なのかもしれないと考えている。

 

勿論、格差と貧困、コロナの問題など心を揺さぶる問題は日々枚挙に暇はない。それはまず当事者や担当する専門家達が解決する以外本当は何も解決しない。

僕にできるのは、せいぜいSNSでストレスを発散する位が関の山だ。そして日々の生活を大切にして生きていくということも、吉本さんから教わったことの一つだ。

 

音楽で世界は救えない

誤解を恐れずに言えば愛でも音楽でも世界は救えない。でも一人の音楽家が音楽で平和をと願って活動をしようとすることは全く正しい行為だ。

芸術家にとって最も大切なものは自分自身がこれを表現せざるを得ないという切実な動機を見つける事であり、それが何であれ誰も揺るがしてはならないものだということ。

 

この違いがわかってもらえると嬉しいのだが。

 

今ある様々な問題は僕にとって切実な問題ではない、僕の戦いの場は別のところにある。