ヴィクトル・エリセ『エル・スール』『ミツバチのささやき』
ヴィクトル・エリセ『エル・スール』『ミツバチのささやき』
1986年4月11日
『エル・スール』
(南へ):作家にはそれぞれに自分の表現したい切実なモティーフがある、しかしいうまでもないが、作品にそれがダイレクトに反映したからといって、それによって作品が成功するとは限らない。又作品自体の本質もそれとは=で繋がるものでは、必ずしも無い。ヴィクトル・エリセの場合は、多分それは、スペイン人民戦争の頃の体験(共和派とフランコ派の抗争)の中にあるのだろう。だがそれはあくまでも一つのきっかけにしかすぎない。『エル・スール』の本質は少女(幼児)と父親の関係の中で徐々に培われてる、世界認識の方法とでもいうものがその本当のモティーフなのだ。そこでは作者の眼を通すことによって日常の生活が幻想的な色彩を帯びてくる。視線(ナレイション)は常に少女の所に固定される。
『ミツバチのささやき』
この作品の方が後になるのだろう。やはり物語の導入は-自己のものであろう-スペインの内戦の体験に拠っている。この作品では更に徹底して作者の眼は主人公の幼女に集中されている。基本的な構成も同じで、導入部の再現がこの場合には村(町?)にやって来た巡回映画の「フランケンシュタイン」になるが、ここでは前作よりも更に洗練され効果的に使われている。どちらも題材・人物ともに日常的なものであるのにまるで幻想の世界に入った様な気分に、観る者をさせる。その理由は「視線」にあると思る。