エッセー
エッセー
音(音楽)は、その瞬間々々に現われては消えていってしまうために、それをイメージの中で再構築するためには、言葉が必要になってくる。そして奇妙なことに、僕達は音を直接表現する言葉を持っていない。多分そのような言葉があったとしても、極めて僅かなものにしか過ぎないし、その時に語られる言葉の大部分は視覚的なイメージを借りていることに気が付く。
「暗い音」「音がぶつかっている。」「明るく歌う。」等々。人はずっと昔から、聴覚的なイメージを他の感覚を表現する言葉で語っていたのではないかと僕は思っているのだが、現在でも、音(音楽)は、いつも 「……のような」という表現でしか語ることが出来ない。
なんでこんなことを言いだすかというと、どうやら僕にとって曲を書くきっかけ、カッコよくいえば、自分の発想のモチベーションのなかに、かなりな部分で視覚的なイメージを音に置き換えたいという欲求があるからだ。視覚的な言語によって音楽が考えられることで、言葉は音(音楽)自体とは別の方向へも進んで行く。けれど、それによって、逆に音を視覚的イメージの中でとらえてしまうという恐れもある。つまり言葉に頼って聞いている、こうなるとあまり望ましい状態ではない。
言葉は音(音楽)を写す鏡ではあるが、それは歪んだ鏡なのだ。音は視覚的なイメージに依って規定されるが、そのイメージは逆に増幅して音(音楽)に向かっても反射してくる。この視覚的なヴィジョンと音楽との相互作用の中にあるダイナミズムが、多くの作曲家達にとって、彼らの音(音楽)的思考の重要な部分を占めていたと僕は考えている。
作曲家が音を譜面に定着し、演奏家が演奏をする。それぞれが、この不確かな世界に輪郭を与
えていく作業なのだ。僕にとって曲を書くという行為も、この無意識に拡散している音のフィ
ールドの中に、ある限定された方法で、音の地図を書いて行くことであると今は思っている。
(国際芸術連盟会報誌『パウゼ』1999年早春号)
堀越隆一公式サイト
作曲家、堀越隆一の公式サイト。1976年のデビュー以降、数々の作品を発表する傍ら、編曲、指揮、評論を始め、後進育成の為のアルエム弦楽合奏団の設立、音楽を愛する人に最良の空間を提供するすみだチェリーホールの運営など多岐に渡る活動を展開。最新の活動情報、チケットや楽譜の販売など、随時更新していますので、ぜひお立寄り下さい。
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