堀越隆一公式サイト 作曲家、堀越隆一の公式サイト。1976年のデビュー以降、数々の作品を発表する傍ら、編曲、指揮、評論を始め、後進育成の為のアルエム弦楽合奏団の設立、音楽を愛する人に最良の空間を提供するすみだチェリーホールの運営など多岐に渡る活動を展開。最新の活動情報、チケットや楽譜の販売など、随時更新していますので、ぜひお立寄り下さい。

古楽器の意味について

古楽器の意味について

 

初めてヴィオラ・ダ・ガンバの生の演奏を聞いたのは”マタイ受難曲”(それもこの時初めて全 曲を聴いたのだが)の中のバスのアリアのオブリガートで出て来たときだった。この時の記憶 が実はあまりはっきりしていない。むしろぴんとこなかったと言うほうが正しい言い方だろ う。 古めかしい、特徴のある音色だが、ピントのぼけた古いセピア色の写真のようで、まことに影 が薄く、強引に例えてみるならば、後輩のヴァイオリン族に昇進の先を越された、定年まじか の係長といった、まあ今思い返してみると、そんな所に落ち着くのだ。

 

そんなわけだから、実はこの6月16日のコンサートも、それ程期待せずに行ってみた。ところ がこれが良かったのだ。 何が良かったのか、いろいろあるのだが一つには”マタイ”の時に感じたことの理由が分かった ことだ。原因は空間にあった。大きなコンサート・ホールまたはそれ程でなくても多目的ホー ルとして設計された場では、ガンバの音色の長所は充分には発揮されない。ガンバは音楽之友 ホールのような、ホール・エコーの豊かな(そしてこの楽器のインティメートな性格から必然 的に求められる)小さなホールで身近に聴いてこそその真価が発揮される。実際、演奏された 曲は現代(に書かれた)曲ばかりだったが、楽器自体の持つ表現のツボに入ると驚く程豊かな 響き合いをするのには驚かされた。おそらくこれが本来のレパートリーの曲を演奏したなら ば、その音楽的な喜ばしさは(これは当然のことながら奏者の側により多く)如何ばかりかと おもわず想いを馳せてしまった。

 

けれども西洋の音楽と、それを表現するものとしての楽器の辿った道と、達成されてしまった 成果は、例えば今言ったようなガンバの魅力となる要素を捨てていく道だった。楽器はそれ自 体の音色の固有性を犠牲にしてもすべての音をいかに均質にまた速く発音できるか、言いかえ れば表現上の多様な要求に対して如何に機能的に対応することができるかということを至上目 的とした。そして現在、洋楽器はアコースティックな発音原理をもつ楽器としては一応その極 地まで来たと言っていいだろう。これは言い換えれば機能性に基づく多様な表現様式の到達点 を示す。現在の所これが流行り言葉で言う”近代の終焉”ということになる。

 

何か随分と大袈裟な事を書いているようだが、簡単に言えば、どんな新しい(と本人が思って いる)表現様式も、すべて”アッ、これ知ってる!”または”なんか前に観た(聞いた)ことがあ る”でかたづけられ、少なくとも、表現上の(創作、演奏共に!)課題はもうそこには無いとい う場所に否応なくいるということだ。大半の人々には”だからそれがどうした”という事にすぎ ないかもしれないし事実そうなのだが、芸術家にとっては正に八方塞がり、出口なし、もしそ こに穴があったら入って出て来たくないという程深刻な世の中になってしまったのだ。

 

何か演奏会評として依頼した人の思惑を飛越て勝手な方向に文章が行ってしまった(ような気 がする)が、人を見る目が無かったと後悔してもらうことで、さらに先に進めていく。今言っ た近代(現代)の行き詰まりに直面した表現者達にとって何が必要か、何か方法があるかと言 えば、一つには近代以前の姿、機能化の過程で捨てられていった要素、音楽で言えば機能和声 が確立される以前の音楽、またそれを奏する楽器に注目すること、具体的にはヴィオール族等 の古楽器は正に古楽器であることの意味を考える事、むしろ古楽器的なものを通じて音楽をみ て行く所から、現在から未来につながる道が発見できるかもしれない。

 

何だ、ちっとも具体的じゃ無いじゃないかという人に対しては、正にそのとうりだと言うこと にするし、これが演奏会評かと言われれば(そのような形で組み込まれているならば、誠に責 任を感ずるが)、これがこの日の演奏会を聴いて私自身が感じ、そして考えた、今の私にとっ て最も切実な問題の一つであると答えるしかない。 いずれにしても、この演奏会に誘って下さったガンバ協会の森さんには、感謝の気持ちを記し て御許しを願うのみである。

 

(日本ヴィオラ・ダ・ガンバ協会会報No.38 昭和60年8月31日)

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